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CG MAKING

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今際の国のアリス シーズン2

2022年12月Netflixオリジナルシリーズ作品【VFX制作】

INTRODUCTION

2020年12月に公開されたNetflixオリジナル作品『今際の国のアリス シーズン1』にひき続き、続編である2022年12月に公開された『今際の国のアリス シーズン2』でもデジタル・フロンティア(以下、DF)はVFXのメインベンダーとして参加している。本作は、麻生羽呂氏の同名漫画を原作にしたスリラー作品で、ある日突然何者かが主催する"げぇむ"に参加させられた主人公アリスと仲間たちが、元の世界に戻る希望を求めて、生死をかけた”げぇむ“に挑む物語だ。前作は比較的現在の街並の中でのドラマシーンが多かったが、シーズン2では急激に荒廃し緑化した都市で物語が進行していく。そのためセットエクステンション(背景合成)の作業も多く、前作の約3倍の数のVFXショットが必要となったという。この大量のセットエクステンションの作業を期間内に実現するため、これまでMayaなどの3DCGツールでレンダリングした素材を使用するのではなく、ゲームエンジンのUnreal Engine4のリアルタイムレンダリングで生成されたレンダリング素材を利用するというチャレンジが実践された。それでは、このUnreal Engineを使った背景制作を中心に、VFX制作携わったメインスタッフの方々にお話を伺った。

(インタービュアー・テキスト:ビットプランクス 大河原浩一)

VFXパートのワークフローとコンセプト

VFXメイキングムービー

前作を超えるVFXショットに挑む

Q.

まず最初に、本作でのDFの役割を教えてください。

鈴木

本作での役割は、前作『今際の国のアリス』シーズン1と同様にVFX制作のメインプロダクションを担当しています。今回は前作に比べてVFXのボリュームが増えたこともあり、複数の会社に参加していただきました。今作でも弊社の土井がVFXスーパーバイザーとしてアサインしており、VFXカットのある撮影には立ち会いもしています。前作以上のクオリティとボリュームを、期間内に制作することが大きな課題でしたが、全スタッフが力を合わせたおかげで乗り切れたと思います。 CGプロデューサー 鈴木 伸広 CGプロデューサー 鈴木 伸広

  • ※コンテナが密集するげぇむ会場

Q.

本作では、背景制作にUnrealEngine4(以後UE4)を活用しているということでしたが背景制作にUE4を利用した経緯を教えてください。

土井

前作でも木の揺れがあるような渋谷の一部の背景をUE4で制作していますが、その時はハードウェアの問題やソフトウェアの安定性の問題から、望んだクオリティに届かないということで、木の揺れに絡んだカットだけに使用したという経緯があります。シーズン2の制作に入るにあたって、マシンスペックも上がり、UEもバージョンアップされたことで、リアルタイムレイトレースの機能を使いつつ、チャレンジとしてUE4を使ってみようと思い、今作の背景制作に利用することにしました。シーズン1の頃のスペックだとビデオメモリが足りないということで、マシンスペックを1世代上げて、グラフィックスボードも Nvidia Geforce RTX3090をメインにすることで実現できました。UE4が絡んでくる渋谷のカットで、弊社がUE4を使って制作した背景素材を、協力会社へ渡してコンポジット作業を行なってもらっています。その他の空撮や点描はアセットごと協力会社にお任せしている部分もあります。 VFXスーパーバイザー 土井 淳 VFXスーパーバイザー 土井 淳

  • ※植物化した渋谷

Q.

DFがUE4で背景を制作しているところと、協力会社で制作されているところのルックの繋がりが非常に自然で違いがわからないですね。

土井

ルックの合わせは、まず弊社のほうで渋谷のアセットを制作して、僕の方でイメージボードを用意し、そのふたつを参考に同じようになるように制作してもらっています。

 

Q.

本作の制作上のポイントを教えてください。

土井

シーズン2の注力ポイントは、まず東京の街を植物化するというのが一番大きかったですね。あとは、飛行船を爆破するというのも大きなポイントでした。ここまで背景のアセットに注力したことは過去作ではあまりありませんでしたね。

鈴木

僕の方は、スケジュールやこの物量をどうこなすかというところに注力しましたね。普段は社内だけで制作することが多いのですが、今回は協力会社と連携してなんとかやれたというところはありました。

 

土井

初期プロットの段階だと約2500カットぐらいありました。画コンテ前のシナリオ段階までは、それぐらいで見積もっていたんですが、これは多すぎるということでシナリオを変えてもらったりしながら、最終的に1800カットぐらいになりました。バレ消しを含めると2100カットぐらい。カット数的にはシーズン1の2倍ぐらいですが、手数を考えると3倍ぐらいになっていましたね(笑)。前作は無人の渋谷が舞台だったので、交差点以外は人や明かりを消す作業が多かったんですが、今作は植物化している東京の点描が多かったので、シナリオに「植物化されている東京」とか書かれているとそれだけで作業量が膨らんでしまいました。エピソード2に出てくる広いコンテナが置いてあるげぇむ会場は、実際にレンタルした200個のコンテナをうまく撮りきれるように配置して、広い画のカットだけCGでコンテナを足すということ可能になったので、少しVFXのボリュームは抑えられたと思います。

 
  • ※コンテナの上を走るカット

Q.

UE4の利用は、背景制作の工数軽減が主な目的だったのでしょうか。

土井

まずMayaではレンダリングが回らないんじゃないかと思いました。そこで、前作で出来上がっていた渋谷のアセットをUE4にコンバートして、植物を配置して葉の揺らぎとかを試してみました。結果、非常に処理が軽かったので、今作での表現にはUE4の方が向いていると判断しました。冒頭の植物化していない渋谷の街並はV-Rayでレンダリングしていて、エピソード7から出てくる渋谷の街からはUE4で制作しています。

Q.

UE4を使うためにR&Dに時間を割いたりしたのでしょうか。

土井

V-Rayで設定されたマテリアルのルックをUE4でも再現するというのは試しました。弊社の中にUE4を研究しているチームもいるので、彼らを中心にR&Dしています。前作までは、UE4のスタッフ数は少なかったですね。現在は、チームを徐々に増やしている段階です。ここまでUEを使って映像制作をしているプロダクションは聞いたことがないって言われます。そもそも海外ではV-Rayを使ってもレンダリングできる環境で制作しているので、わざわざUE4を使う必要がないでしょうね。Netflixさんにも、今回みたいにUE4を使った背景作りはレアケースですよと言われました。今回は特にポストプロダクションの時間が編集に削られてしまったので、UE4の利用は結果的に良かったと思っています。

Q.

作品の中でUE4を使ってみてどうでしたか。

土井

ライティングとか色々と注文を付けて制作してもらったっていうこともありますが、想像以上に高いクオリティで出来たのではないかと思っています。また、Mayaで作ったシーンをUE4のシーンにビルドするようなツールも作ってもらったので、かなり時間短縮にもなったと思います。UEもUE5にバージョンが上がって、表現力もアップしたので、これからVFXの現場でもメインツールの1つになるのではと思っています。

 
  • ※UE4で植物化した渋谷