株式会社デジタル・フロンティア-Digital Frontier

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CG MAKING

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いぬやしき

2018年4月劇場公開作品【VFX制作】

レンダラーと開発内容の精査

ここからは、「デジタルヒューマン」にてシェーダーやツールの開発をメインで行っていた後藤氏に伺った。
「デジタルヒューマン」では、レンダラーはArnoldが用いられた。いくつか理由はあったが、最も大きかったのはAPIの優秀さにあったという。ArnoldのAPIは整理されており、シンプルで拡張性が高く、開発することが容易だったそうだ。「デジタルヒューマン」技術におけるSceneLinearワークフローを実現するには持ってこいのレンダラーだったのだ。

後藤

あくまでレンダラーはレンダラーなのでそこだけが良くてもダメ。結果は、高品質のアセットやシェーダーに基づいてできるものなので、レンダラー以外のものも見直しました。その結果がこの「いぬやしき」です。

  • タスクブレイクダウン要素羅列の画像

“人”を表現するための開発

「デジタルヒューマン」では、皺などのディテール表現のために、VectorDisplacementが用いられた。Displacementでは一軸に関して凹凸を持たせることしかできないのに対して、VectorDisplacementは3軸を用いて凹凸を持たせることができるので有機的な凹凸もポリゴンをいじることなく表現できる。VectorDisplacementに必要なマップは既存のスカルプトソフトで出力できるので、開発もワークフローの整備だけで済んだそうだ。

  • Sculpt結果とVectorDisplacement結果比較画像

「座頭市 0」の表現結果より毛の表現も見直しが行われ、Yetiを用いることが決まった。当時はmaya HairやXgenを使っていたが、毛を生やしているトポロジーが変わってしまうとデータに不整合が発生し、非破壊なワークフローが組めないことが問題になっていたという。データ構造にも懸念点があり、再検証した結果Yetiに行き着いたのだ。
また、Yetiを選んだ理由として、ノードベースならではの非破壊性、サブディビジョンサーフェイスへの対応が大きかったという。このように毛表現を見直したことによって、よりリアリティのある表現をすることができたのだ。
シミュレーション回りでは、毛にnHair、筋肉にZIVA VFX、衣服にnClothと既存のプラグインやツールが躊躇なく使われた。

見た目を大きく左右するシェーダーの開発

後藤

重要なのは絵作り。物理的正確さを逸脱してでも求めるものができるようにしておく必要もありました。

シェーダー開発の際には、リアリティとユーザビリティに注力したという。物理的正確さでクオリティを均質化しつつも、さらにそこから編集性を担保していくようにしたのだ。
本作で開発されたシェーダーやノードをいくつか紹介してもらったが、ここではスキンシェーダーとヘアーシェーダーを取り上げる。

まずは、スキンシェーダーだ。
当初サブサーフェイススキャタリング(以下SSS)に使用していたDipoleモデルでは、シングルスキャター(以下SS)、いわゆる薄い層に光が入射したときにより前方に光が透過する表現、を再現することが難しく、別途SSを実装したとのことだ。

しかし、SSSにEmpiricalモデルを用いるようになり、構造もシンプルになり計算速度も向上し、アーティストにとっても非常に喜ばれた。ただ、EmpricalモデルにはSS成分が含まれているがコントロールできないので、調整用にSSの実装も残しているという。
また、エネルギー保存については分配率をアーティスト側でコントロールできるようにしたり、ライトグループ毎のコンポーネントAOVを出力できるようにしたりと、作業効率を高めつつ汎用性も担保する工夫がされていたようだ。

  • sss(emprical vs cubic)
  • single scatter(ss)
  • skin lighting test

次にヘアーシェーダーだ。
これは、ピクサー等でも用いられているMarschnerモデルをベースにしたシェーダーになっている。独自の開発要素としては、hair variableという項目だ。このhair variableによって、個々の長さベースもしくは距離ベース、さらにメッシュのUVでマッピングしたテクスチャーによって毛色やパラメータを調整でき、毛の経年変化などを表現しやすい仕組みを実現した。

  •  
  •  
  • 【hair variable】

また、ランダム要素についても手が加えられている。
一般に与えられるランダムではアーティストがイメージするランダムを再現し難いことから、よりアーティストが求めるものが出るようなランダム方法を組み込んだのだ。このランダム要素により、細かな調整やアーティストの意図が表現しやすくなったという。

  • ramdom param

後藤

最初にロードマップを立てて何を開発していくかの取捨選択の判断が大事でした。
既存のもので優秀なものはお金を払ってでも導入した方が総合的にはコスト減になります。
クオリティの70%くらいは技術でカバーして、残りの30%はアーティストの作業時間としてフルに充てられるようにしたいと思っています。この30%は数字以上に大変なので。

© 2018映画「いぬやしき」製作委員会 © 奥浩哉/集英社