株式会社デジタル・フロンティア-Digital Frontier

Header

Main

CG MAKING

一覧に戻る

GANTZ:O

2016年10月劇場公開作品【CG制作】

ヘッドマウントを付けた
パフォーマンス・キャプチャーを導入

実在するリアルな街を舞台に、現実にはありえない壮絶なバトルが展開していくのが『GANTZ』世界のスリリングな魅力。『GANTZ:O』は大阪が舞台になっていることで一層シュールな味わいが生まれている。川村泰監督、源良太氏(Sets Art:)、藤井直之氏(Character)、森田健介氏(Rigging & Simulation)、越田弘毅氏(Motion Capture)、亀川武志氏(Layout&Animation)、石山健作氏(Facial)ら、主に制作前半に関わる部門の方々から、リアルな世界で躍動する背景とキャラクター作りについて聞いた。

大阪のロケハンで得たものの反映

今回は原作の大阪編ということで、2014年4月頃に、まず大阪へロケハンに行ったんです。そもそも原作が背景の空気感もすごくリアルに描かれていて、現実には起こりえないことが作品上で起きていても、現実に起こっているんじゃないかと感じさせる生々しさが表現されていて。それをCG映像で表現するためには、よりリアルな、現実に近いものを作るしかないということに行き着きました。

川村

実際の場所を背景にするのは一見簡単に思われるかもしれないけど、見慣れた現実世界であるだけに、よりリアリティを求められる。もっとファンタジーな作品で、実際にありえないような造形の建物だったりする方がリアリティ的に許せるところがあるんですよね。

ロケハンに行く段階でシナリオも決まっていて、ここを舞台にしようという候補も決まってましたね。実際そこへ行って、じゃあこういう動線でキャラをこう動かして、背景もこういう見え方でというのが、ある程度そこで決まってました。

川村

原作の背景と思われる場所をGoogleマップで確認して「ここだ」っていうのがあったんだよね。スタッフはみんな原作をよく知ってる連中ばかりなんで、細かく説明しなくても、どこへ行くか分かってました。

僕はもう写真を撮るのに一杯一杯で。人が多いので「何してるんだろう?」って目ですごく見られましたね。

川村

普通の観光客が撮らないような物を撮ってるからね。看板だったり、地面だったり。気づいたらラブホテルの横とか撮り始めてて、「いいよ、ココは」って(笑)。Googleストリートみたいに360度撮れるカメラでも撮ってるんですよ。その特殊なカメラで歩きながら5秒毎にカチャカチャ撮ってるんで、「何してるんですか?」って道行くお姉ちゃんから声かけられたり。

  • 360度カメラの画像

──やっぱり東京の街とは違いますか?

川村

新宿は蛍光灯が多いせいだと思うんですが、ライトが緑っぽいんですよ。道頓堀の「食いだおれ」の辺りは食べ物屋さんが多いせいか、やっぱりオレンジっぽいというか暖色系が多いんです。そういう差は感じましたね。

こういうドラゴンとか、特徴的な看板が大阪は多かったですね。

  • 新宿
  • 大阪
  • 大阪

川村

原作は5年くらい前なんで、まだあんなところにスタバもなかったり、「道頓堀」っていう看板もデジタルサイネージじゃなくて、普通の電光の看板だった。映画ではそこがアップデートされてます。

写真は予備の電源を持ってかないと足りないくらい撮りましたね。作中には出てこないような背景も撮ったり、昼間と夜に分けて撮ったり。昼間に撮るのは実際の大阪の街の空気感だったり、テクスチャーと言って背景に貼り付けるための画像を撮る目的で、夜は作中の設定が夜のシチュエーションなので、その実際の雰囲気と、後はキャラのライティングに使うHDRという素材を一緒に撮りました。テクスチャーの撮影に関しては、影が入ると編集する時に邪魔になるので、ライトの陰影とかがなるべく入らないように、本当は曇の日がベストなんですが、この時は晴れてましたね。

川村

現実世界の生活感を出すためには、情報量がすごく多くなるんです。それをどこまで作るか。

そうですね。絵の情報量を増やすために、地面にゴミとか血だまりとかを足したり。クオリティは落としたくなかったので、背景のシチュエーションはシナリオの段階で結構削っていただいたんですけど、ひとつの背景に対する物量が多く、これをいかに効率的に無駄なく終わらせるか。一つ一つ作っていくと多大なコストがかかってしまうので、汎用的に流用できるアセットをビル単位で大まかに作成して、それを並べて街全体を一回作って、アニメーションチームがざっくり作ってくれたカメラをデータに組み込んで、そこから見える範囲をブラッシュアップしていくというふうに、なるべく効率的に作業するように心がけました。

──いちばん大変だったシーンの背景はどこですか?

戎橋ですかね。360度見回すと結構広くて、遠くまでビルが並んでいるので、どうしてもデータ量的にも重たいシーンになっちゃうんです。そうなると次の工程の人たちに迷惑をかけてしまうので、データ作りは難しかったですね。気をつけたのは、感動的なシーンで背景の看板が変に目立ったりすると……。

川村

「たこ焼き」とか(笑)。

そこは別の看板に置きかえたりとか。監督に最初に設計してもらったり、自分たちでも考えてやってました。

川村

ネオンがどのタイミングで青になったり赤になったりというのも、演出的に指定したりしてるんですよね。そこまでできるのがCG映画の面白いところで。

キャラクターらしさとリアルのバランス

藤井

キャラクター制作に関しては、自分は最初からは関わっていなくて途中からリードとして入ったんですが、まだ脚本もフィックスしていなくて、本編には出てないキャラも少し作っていた時期もありました。開発中はリアルテイストでやっていて、キャラクターらしさとリアルテイストの質感との落としどころが大変でした。キャラクター的には川村さんにレタッチしていただいたのが助かって、作りやすかったところですね。

  • チェックに上がった初期モデル①指示付き
  • チェックに上がった初期モデル②
  • レタッチ
  • 完成画像

川村

最初はもっとリアルだったんですが、もう少しキャラっぽい方が原作風でもありますし、リアルな日本人にしていくと目が小さくなっちゃったりしてパンチ力がなくなっていくんですね。実写級の本物そっくりだったらいいんでしょうけど、中途半端な感じもあったりして、むしろキャラっぽくてもそっちの方がいいっていう意見は多いみたいです。漫画のそのままのデザインだとフェイシャルキャプチャーと合わないというのもあって、CGで表情をやりやすいバランスを考えてレタッチしました。CGのキャラってリアル系のキャラだと特に“不気味の谷”問題ってあると思いますが、一般の人にどこまで受け入れられるかは今でもちょっと不安ではあります。

──皺が多い顔になると大変ですか?

藤井

ZBrushという粘土をこねるみたいに造形できるソフトがあるんですが、直感的にどんどん足していけるので、あまり人の顔から離れすぎず、要素を拾いつつという感じで難しいですけど、意外とツルッとした女キャラよりもディテールが足せる分、ごまかしが効いてバランス取りやすかったりはします。
大変だったところとしては、今までの作品より一体に対して切り替えのパターンが多かったなと。そこがこだわりどころだと思います。「ぬらりひょん」の最初のおじさんのキャラで分身するところも一体ずつ顔を変えてたり。それぞれ、こういう演出だからこういう血の付き方になるといった細かい指示があったので、作りやすくはあったんですけど、今までの比にならないぐらいの量はありました。髪型ひとつにしても濡れた感じとか。顔にはかなりこだわりましたが、身体に関してはできるだけコストを抑えるために新しいツールを使ってパラメータでちょっと調整してベースにして、特徴あるやつは手動で調整していくというように。

川村

CGって放っとくといつまでもツルツルで汚れないんですが、そこはサバイバル・アクションなので最初から最後までキレイだと演出的に成り立たないので。

藤井

加藤は汚れ方で9パターンぐらいあるんですけど、それでもちょっと減らしてもらいました(笑)。

川村

道頓堀へ飛び込むところがあって、いい感じに汚れてたのが、一回ウェットになってちょっと血が落ちるとかね。

藤井

基本はテクスチャーの切り替えでできるようにしてるんですが、毛に関してはスタイリングとかウェット感を調整してやってます。

──いちばんこだわったキャラは?

藤井

最後までかかったのは女体の妖怪とかですね。チェック環境と最終的なショットの環境で違ったので、その環境で良くなるような質感調整は最後までやってました。ここはサーチライトとかいろんな要素があるので、レンダリングも重いんです。動かし過ぎると巨大にならないし、難しかったです。要所要所で背景に死体が転がっていたりするんですが、それもキャラチームの方でやってます。

川村

「死体は背景チームか?」「武器が落ちているのは?」とか、どこが担当するんだというのはよくあります。ロボはどこの担当?

藤井

ロボは背景です。
ガンツバイクも背景扱いでしたよね。

川村

固いものは背景。

うちの場合、ハードサーフェスのモデリングは背景チームの方が得意だったりするので。

──そういう得意分野は仕事をやっていくうちに決まってくるんですか?

今は入社する段階で「ここの室に入りたい」という希望があって来るケースが多いですけど、ちょっと前まではジェネラリストとしていろんなことを経験してから「この作業に特化したい」となっていく感じでした。

川村

最近は学生の時から方向性を決めちゃってる人が多いですね。好きだから合ってるとは限らないし、本当は間違ってることもあるだろうなとは思いますけど。

らしさを追求するリギング&シミュレーション

森田

キャラクターに骨を入れて動かせるようにするのがリギングなんですが、メインキャラがほとんどガンツスーツという、ほぼ裸に近い状態なので、人が腕を曲げた時のシルエットとか、肩を下ろした時のシルエットを、いちばん気をつけてセットアップしました。キャラ数が多いので、まずはメインの加藤を作って、その加藤のベースのリグを他のキャラに移植していけるような仕組み作りを考えながら作業しましたね。一体一体違うキャラなので、別々にセットアップしてキャラの個性を出すというやり方もあると思うんですけど、そうすると工数がかかってしまうので、できるだけコストを抑えつつクオリティを出せるワークフローを考えて作業しました。あと、今回はクロスとヘアシミュレーションに重きを起きました。

──クロスとヘアシミュレーションとは?

森田

クロスは服、ヘアは髪です。シミュレーションをしないと、バインドと言ってジョイントで制御する状態になるので、服が揺れたりシワになったりという形状の変形がないんですよ。シミュレーションのセットアップを一体ずつやろうとすると莫大なコストがかかるんで、ベースというか雛形みたいなのを決めて、そこからいろんな服のパターンに派生していくという仕組みを作って対応しました。
だいたいモブキャラ、サブキャラはクロスとヘアをしないという工数削減対象になり得るんですけれども、今回のテーマとしてモブをモブらしくしない、モブのクオリティを上げていくというのがありまして。モブだから手を抜くということはなく、メイン級と同じくらい揺らせようということです。

川村

CGはよく「硬い」と言われて、本来それはちゃんと時間をかければ柔らかくできるんですけど、服を揺らしたり髪を揺らしたりすることで、柔らかく自然な印象にできるんです。

──ということは、女性キャラの方が手間がかかる?

森田

そうですね。レイカとか髪の毛が長いので制御するのが難しくて。今回、作業人数が少なかったので外注さんにもかなりお願いしまして、DFの仕様に慣れていないと作業しづらいので、誰が触っても比較的コントロールしやすいシミュレーションの仕込みを最初に作って進めていきました。

川村

身体も骨を入れないとただのフィギュアになっちゃうように、髪や服もリグを入れないと動かないんです。女性キャラの胸なんかも。

森田

天狗がYガンで縛られるところなんかは、Yガンのヒモとか縛られている服の感じとかシミュレーションで表現しています。

川村

リアルになればなるほどそれに付随して表現しなきゃならないものが増えるんですが、幸い本作はガンツスーツがピチピチだったので、あれがスカートとかコートだったらこの企画は終了してます(笑)。

森田

山咲というキャラの髪の毛がふわっとしてるんですが、髪が長いレイカよりも苦労しました。一回シミュレーションして川村さんにチェックしてもらうと「山咲っぽくないね」というところがあったりして。ヘアシミュレーションすると髪がストンと落ちて髪型が変わってしまうんですよね。ボリュームをキープしようとすると髪自体が硬くなってしまうし。

  • 山咲
  • 山咲のヘアシュミレーション

川村

物理的にリアルであればいいってわけでもないところがあるんですね。

森田

女体集合体のところも、胸がいっぱいあるのを、一個一個全部ではないですけど、結構な数を揺らしてまして、この制御とか大変でしたね。揺らすと水風船っぽくなってしまって、中に詰まっている肉の重さを表現するのに苦労しました。シミュレーションしないと何も動かなくてCGっぽくなってしまうので、川村さんが横で「これは揺らした方がいいよ」って。

川村

恐ろしいことをサラッと言う(笑)。

森田

やっぱり揺らしてよかったなと思いますけど。

パフォーマンス・キャプチャーの本格導入

越田

このプロジェクトにモーションキャプチャー・チームとして関わったのはパイロット版を撮影した2013年からで、その時に要望があったのが、表情をヘッドマウントカメラで収録したいということでした。今まで顔のデータを撮る時は顔専用のスタジオで、顔に3mmくらいのマーカーをたくさん付けて撮る方法がメインだったんですけど、ヘッドマウントカメラを被って顔の表情を身体の動きと同時に撮る、パフォーマンス・キャプチャーという手法で今回は行いました。

  • モーションキャプチャーの撮影風景

川村

芝居と表情を同時にすべて撮れるという、『アバター』で注目された技術です。今はもっと進んでいるんですけど。

越田

ヘッドマウントで撮影すると、目線の動きもデータ化できるんです。目の動きの演技って感情表現には重要で、それまでマーカーで表情を撮影した後に目の動きだけ手付けで表現していたのとはリアルさが全然違います。

川村

デジタルカメラの画素数やコンピュータの顔認証のプログラムが進歩したおかげです。表現は技術の進歩とセットなんですよね。

越田

本編の撮影が決まった時点で、ヘッドマウントカメラが3台しかなかったんですね。メインの役者8人全員に付けられればよかったんですけど、さすがにそれは無理だということで5台用意することになって、市販されているものを買うのか、それとも自前で作るのかを選択することになりました。本当は買ってほしかったんですけど、コスト的に松竹梅の3つのプランを上司に提示して、いちばん上の松だとクルマ一台買えるぐらいの値段なんですね(笑)。結局、さまざまな理由で手作りのプランになりました。

川村

越田さんチームは技術工作のスキルがものすごく高くて、何でも作っちゃうんですよ。

越田

被る部分のヘッドリグだけは市販の物を買って、メインのシステムの部分は自分たちで全て構成しました。カメラ内のチップに入っているカメラを制御するファームウェアを純正ではないものに書き換えてPCから複数代同時に制御できるようにしました。失敗するとカメラが使い物にならなくなる恐れもあったんですけど(笑)。このヘッドマウントカメラをモーキャプシステム側のスタート、ストップと自動同期させるツールも作りました。ツール自体は早めにできてたんですが、それを操作するUIが完成したのが撮影2日前ぐらいでした。その後、撮影の進行と同時にオペレータの要望を聞き入れつつ使いやすいツールに仕上げていきました。

川村

海外のサイトを調べて翻訳して、日本で揃えられる機材で作る。

越田

そうです。日本でここまで本格的な5名同時のパフォーマンス・キャプチャーを自前で行ったのは初めてかもしれません。

  • ヘッドマウントカメラ

──撮影期間はどれくらい?

越田

通常のモーションキャプチャーだと1日で15分ぐらいのシーンが撮れるんですが、パフォーマンスキャプチャーだと1日6分ぐらい。それで3週間ぐらいかかりました。この手法の撮影って大変で、より複雑に連動する複数のデバイスが滞りなく動かないと撮影がどんどん遅れていってしまうので、その辺はしっかり機材リハーサルを行って撮影に望みました。

川村

撮影時のチェックも、全体の動きを撮るカメラの引いた絵でOKというのと、表情の方を見てOKというのと、2回チェックするので時間がかかるんですよね。

──役者さんは撮影中、ずっと顔の近くで照明が当たってるんですね。

越田

撮影期間中は我慢してくれてたと思うんですけど、後日「しんどかった」っていうのを聞きました。モブキャラは従来通りのマーカー方式で別日に2日間で一気に撮影しています。フェイシャルの石山さんから無茶なオーダーをいただいて(笑)、マーカー300点ぐらい付けて撮ったりもしました。モブキャラの顔用に社内で募集を掛けて18名の3DスキャンもMCチームで行いました。

藤井

スキャンしたデータにベースのポリゴンメッシュを貼り付けて。

越田

映画のそこかしこにウチのスタッフがエキストラ出演してるんですよ。

アクションのカッコよさを追求したアニメーション

亀川

アニメーションはまずモーションキャプチャーを撮ったデータからキャラクターに流し込む仕事ですね。それぞれのシーンを作って、カメラを付けて編集するという骨組みみたいなものを作ってまして。カメラワークとかはもちろん絵コンテがベースなんですけど、今回はアクションシーンが多くて、アクションは絵コンテで切りづらいところもあるので、そこを川村さんと一緒にカメラワークを考えつつやりました。
基本的には実写映画のアクションシーンのカッコいいカメラワークとかを参考にしつつ作ってますね。妖怪なんかはモーションキャプチャーで撮れないものは手付けで動かして。今回はアクションベースなので、より荒々しいカメラワークとか、手持ちカメラ感とかを強調しながら、CGっぽさがあまり出ないように意識しながら、とにかくカッコいい映像を目指して作りました。

川村

実写で撮影する時はカメラの重みで慣性による物理的なゆらぎがあるんですけど、それをあえてやるという。

亀川

たぶん実写の方々はそれを止めることを意識してると思うんですけど、逆にそれを揺らしたりしてなるべく生っぽい感じを出すようにしました。アクションが多いので、モーションキャプチャーのデータをカメラに合わせて、ここはもっと強調しようとか、ここは削ろうとか、モーションの編集をするのは苦労しました。妖怪もそれぞれの特徴に合わせて動きを変えたりとかありましたし。

川村

こんな戎橋みたいな大きなセットはないので、ここを10ブロックぐらいに分けてモーションキャプチャーの撮影をやってるんですね。

亀川

GANTZロボとか牛鬼とかデカいものに関しては、モーションキャプチャーの動きをベースにしながらもかなり手付け要素をプラスして、重さや大きさをカメラワークも併せて表現してます。『パシフィック・リム』なんかも参考にして。

川村

ここは重要ですが、原作は『パシフィック・リム』より先なんです。日米が影響を与え合ってるのがキャッチボールみたいで面白いですね。

亀川

大きいキャラは撮影の時にゆっくり動くと、わざとらしい動きになってしまうんで、撮影の時は普通に動きやすいスピードで動いてもらって、後でCG上でゆっくり動かして大きさや重さを出すようにしてます。GANTZロボは何人かで分担して作っているので、人によってスピード感とか違うのでチェック時に調整はしました。
個人的にはこのロボVS牛鬼のシーンをもっとやりたかったですけど、やっぱりデータ的にも重いので限界が……。牛鬼が川から出てきてGANTZロボと対峙するところは好きですね。冒頭の渋谷のアクションシーン、玄野とおっちゃんがバイクに乗ってくるところなんかも好きですけど。

  • ロボVS牛鬼のシーン
  • 玄野とおっちゃんのバイクシーン

川村

細かいのまで含めるとアクションシーンが10カ所ぐらいあって、それぞれを考えるのが大変だったんですけど、僕が大体の構成とイメージをアクション監督の園村健介さんに伝えてお願いして、園村さんのアイデアがCG技術的にも着地できるかという部分は亀川にチェックしてもらってという形で。

亀川

園村さんに任せておけばアクションはいろいろカッコよくしてもらえるんでね。久々の長編でアクションも多くて、アニメーションチーム的にもやりがいがあって、なるべく悔いがないようにみんなやってもらったので、かなり満足のいくものはできたかなと思います。普段はもっとドラマとか会話シーンが多いので、それはそれでいいんですけど、アニメーターとしてはGANTZという素材はやりがいがありましたね。

川村

レイアウトがすごく良くなってた気がする。そこに関してはそんなにダメ出ししなかったよね。

亀川

みんな力がついてきたっていうのもあるし、最初に川村さんから言われた参考作品とかもちゃんと見て、違和感のないようにイメージの共通認識みたいなのをすり合わせるようにしました。

川村

何を見ろって言ったっけ?

亀川

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『ヘルボーイ』『アメージング・スパイダーマン』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』とかですね。もちろん川村さんの要望をクリアするのは大前提で、そこにうちらのアイデアを盛り込めればいいなと。社内の監督で、すぐやりとりできるのはいいと思います。

川村

そもそも僕はアニメーターだったので、その辺の説明のボキャブラリーは得意かな。辛いところも分かっているので、なるべくみんなが楽しくやれるようにと思って……後半ちょっとスケジュール的に余裕がなくなってきて、気遣いの言葉が減ったのはまずかったなと後で思いました。

亀川

若干ピリピリさせるのも、たまにはいいと思いますよ(笑)

フルCG映画は顔が命

石山

フェイシャルのリギングからアニメーションまで、キャラクターの顔を一手にやってるんですけど、『GANTZ:O』で目標だったのは、キャラクターの感情表現をどこまで見る人に伝えられるかというのはいちばんのテーマでしたね。川村さんからもずっと言われ続け、パイロット版も2回撮影してるんですけど、2回めの方で感情をもっと出せるか動画のテストも行って、そこに重きをおいてやってました。
日本人なので、外人みたいにオーバーな表情ではないので、繊細な表情変化がどこまで表現できるか。しゃべる時も日本人ってボソボソしゃべるじゃないですか。微妙な弱い口の動きだとリグがよくないと硬くパクパクしたロボットみたいな動きになっちゃうので、それでも柔らかく見えるようにとか。

──パフォーマンス・キャプチャーの導入も大きかったですか。

石山

ボディと顔が完全に同期して、身体から連動して感情が伝わるのでより伝わりやすくなっていると思うんですけど、いちばんは目線ですね。目線がちゃんとしてると生きているように見える。「目が死んでる」というのはCGでよく言われることなんですよね。
あと、個人的にこだわったのが瞬きです。実写映画でよく役者さんが演出的に瞬きしないで演技してるじゃないですか。リアルだからそれでいいんですけど、CGで瞬きしなと人形感が出ちゃうので、意識して瞬きさせるようにしてます。前まではちょっと目線を変える時だけ瞬きする感じでやってたんですけど、より現実に忠実に、撮影時に瞬きしたのをあまり削らずに残してリアルに見えるようには心がけました。

川村

フェイシャルはフルCG映画のいちばん重要なところで、CGプロデューサーと僕とで彼に相当プレッシャーをかけてきたんですが(笑)、彼も熱い男なので応えてくれて。普通は途中でそんなにテストをしないんですけど、みんなで絶対そこまで行きたいというクオリティにこだわって。

石山

パイロット版の1回目、2回目、本編と全部違う方式で作って、構造的なものとか全部ぶっ壊して新しく作り変えて挑んでます。

川村

ただ動かすだけじゃなくて、そういう技術の開発とか泥臭いところからやってるんですよね。

石山

自分の顔でテストしたんですが、3時間ぐらいかけて、350点ぐらいのマーカーを自分の顔に付けて。

  • フェイシャルテスト

越田

その撮影のためにスタジオ組み変えましたよ(笑)

石山

モーションチームの協力も得て、川村さんも知らないところで密かにやってたんです。要するに眉毛が上がるだとか口が開くだとかの動きをモーションデータとして80種類ぐらい撮っておいて、それを全部CGのキャラクターに組み込んでいく感じですね。口を開くだけでも300カ所が動くわけで、柔らかく見えるのは情報量がどれだけ多いか、リアルに近いかがすべてなので。自分で撮ってみると、意外と鼻なんかもすごく動くんですよ。

川村

人間の感情が伝わる秘密を彼は300個の点情報に単純化して分かっているという。

石山

苦労するのは、フェイシャルの作業段階で見える絵は最終的なレンダリングされた絵とは違うので、そのギャップをレンダリングされたらこうなるだろうなと脳内補完しながらやるんですが、それでもやっぱりレンダリングしてみるとライトの影響とかもかなりあるので、また修正を加えたりという二重のチェックですね。

──担当はキャラクターごとに分かれるんですか?

石山

スタッフに『GANTZ』ファンは多いので、キャラクターをより良くするためにキャラクターごとにチームを分けてやってるんですね。加藤チームとかレイカチームとか、自分がいちばん思い入れのあるキャラを担当して競い合ってました。

川村

山咲とか全員男でやってるんでしょ?

石山

いや、男2人と女2人ですね。やっぱり男の方が男子が萌える顔を分かってるというのはありますけど、それはちょっと媚びすぎてるんじゃないかとか、女性ならではの観点が加わってよかったと思います。レイカはどうしてもやりたいという男たちがいたので、男だけでやってますけど(笑)。
いちばん落としどころとして難しかったのは、ほうれい線ですね。特に女子キャラと西君。ないとリアリティに欠けるし、あり過ぎると怖くなったり気持ち悪くなるので、川村さんとやりとりは重ねました。

川村

海外のキャラクターだとディズニー系なんかもほうれい線が堂々と出てるので、その文化の違いは何なのかずっと興味があるんですけどね。しゃべり方の違いもあるのかな。

石山

実写でも、場面場面でちょっと気色悪い顔をしても総合的に見ると感情豊かでいいなと思うので、きれいな女優が変な顔しても可愛いなあと思って見ちゃうんですよね。その辺がトータル的に上手くできれば。あと、ライティングでもほうれい線をカバーしたり、ライティングチームが大変だったとは聞いてます。

──皆さんのお話を伺っていて、『GANTZ』の世界って仕事の現場そのものだなと思いました。ミッションが終わらなきゃ帰れないという。

川村

「やるんだ、やるしかないんだ」って現場で言ってましたからね(笑)。

終わりが見えませんでしたからね。

川村

いったい何が敵なのか、俺がぬらりひょんなのかなって(笑)

一般読者は主演俳優らスターの話を聞きたいかもしれないが、スターさんたちは本人のイメージや様々なしがらみもあって、新作プロモーションの場ではどうしてもお定まりのセールストークに終始してしまいがちだ。映画好きにとって、制作スタッフの話を聞くのは本当に楽しい。専門用語も多くてとっつきにくい部分もあるかもしれないが、映画製作の裏側を知りたい人、将来クリエイターを目指す人にとっては面白い話をたくさん聞くことができた。

集合写真(左から)森田、源、亀川、石山、藤井、越田

© 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会