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CG MAKING

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バケモノの子

2015年7月劇場公開作品【CG制作】

INTRODUCTION

2015年の夏映画として、全国458スクリーンで公開された「バケモノの子」。細田守監督作品としては2012年公開の「おおかみこどもの雨と雪」の340万人を大きく超える観客動員を記録し、大旋風を巻き起こした。

「バケモノの子」は、「時をかける少女」、「サマーウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」に続く、細田監督による3年ぶりの長編オリジナル作品。人間界とバケモノ界が存在する世界を舞台に、孤独な少年・九太とバケモノ・熊徹の交流が描かれる。個性豊かな登場人物たち、そして細田流の世界観で繰り広げられる奇想天外なストーリーが、老若男女問わず幅広い年齢層の心をとらえた。

制作には前作のスタッフが再結集し、デジタル・フロンティア(以下、DF)も勿論、「サマーウォーズ」と「おおかみこどもの雨と雪」に続き、細田監督からの厚い信頼のもと、本編全カットのコンポジットとCGを担当した。前作に比べCGクオリティもカット数も増している中、特に“2Dに融合させた3DCGモブ(群衆)”は、DFでなければ生み出せなかった究極のテクニックだ。「バケモノの子」は全部で1550カット。そのうち3DCGモブが関わったのは480カットという。

今回はCG制作の指揮を務めた堀部亮氏のリードで、エンドロールに並ぶ各ユニットのリーダーから、思い出に残るシーンを基に作業裏の話を聞く。

(以下、CGIはCGとして記載)

(インタビュアー: ザッカメッカ 山下香欧)

作画を引き立てるための作りこみ
最大の肝となった3Dモブ

渋谷の街と渋天街の描写。背景キャラを超越したモブ制作

DFでは制作業務の分業制を取り入れている。プロジェクトが立ち上がると、各チームからアサインされたスタッフでプロジェクトチームを結成する。ここでは、キャラクター、アニメーション、リギング、CG開発ユニットのシニアスタッフに、2Dと3Dのシームレスな融合を実現させた各ユニットのテクニックをそれぞれ語ってもらった。やはり今回、肝となったクラウド(群衆)=モブの作り込みが、ユニット全体でも一番の汗と涙の結晶だったようだ。 CGディレクター 堀部 亮 CGディレクター 堀部 亮

【キャラクター ユニット】
CGモブのキャラクター、フェイシャルからプロップ(小物)を作成。オープニングのシルエットキャラクターやクジラのモデリングも担当した。インタビュー参加者は嚴(オム)氏。

【アニメーション ユニット】
オープニング、CGモブ、クジラなどのアニメーションのほか、群衆シミュレーションツールのベースモーション作成も担当。インタビュー参加者は亀川氏と今辻氏。

【セットアップ ユニット】
CGキャラクターのセットアップからカーテン、玉のれん、七夕飾りのクロスシミュレーションを担当。インタビュー参加者は田淵氏、田中氏、神田氏。

【TDユニット(テクニカル・ディレクション)、Crowd(群衆)ユニット】
モブ作成のためのプラグイン、レンダリングシステムの構築からシェーダーの開発を担当。インタビューにはテクニカル・ディレクション担当の石田氏、Crowd担当の護守氏が参加した。

(文章の中ではCGモブはモブとして記載)

“時かけ”でも登場した、渋谷のスクランブル交差点の様子。当時は手描きだったのを今回はCGで表現することになるという展開は、最初から分かっていたと堀部氏は話す。

圧倒的な渋谷スクランブル交差点のCGモブ

モブのアセット数が半端なものではないです。遠距離、中距離、近距離で3モデル。人間、バケモノ合わせて600体ほどを揃えました。パーツごとの組み合わせは(自動ではなく)マニュアルで行っていきます。渋谷のスクランブルでもそうですが、本作は主人公が9歳のころと現在の2つの時代が登場するので、その当時のファッションを意識しなければいけません。持っているアクセサリーから携帯まで、いろいろと研究しました。モブの表情は堀部さんの指示のもとに作っていきます。モブキャラクターの配置は、割とアニメーションチームにお任せでした。基本的にはレイアウトとかコンテにあるものからピックアップし、最終的には堀部さんにチェックしてもらいました。 キャラクター リード 嚴 大鉉 キャラクター リード 嚴 大鉉

堀部

渋谷の街のモブに関しては、比較的こちら(CG制作側)に任せてくれていました。ただ色指定は一度お願いしました。セルの色彩設定があるので、一度こちらから出したものに色調整をしてもらい、また色見本をいただいて。

モブにあてがう色パレットを事前に作るのに手間暇がかかりました。アニメ制作側からの色指定のパレットは画像だったので、それを引っ張ってきて、こちらのパレットのデータとして作っていきました。でも後で群衆を見直し、どうしても色が重なって気になるところはコンポジット上で修正していきました。

モブキャラには2システムの群集シミュレーションを用意

護守

今回はMassiveとMaya上で使うMiarmyの2つのツールを使っています。2つの切り分けとしては、主に歩く群衆ではMassive、闘技場などで座っており、上半身のみに動きがあるシーンにはMiarmyを使っています。Massiveは足が滑りにくいというか、接地感が出しやすく、そのあたりの調整がし易いのです。Miarmyのほうは、ブレインの設定とかモーションを持ってくるという細かい設定が必要でない分、時間と工程が省ける、つまり設定を短縮できる利点があるので、座っているだけのシーンではMiarmyを使って工程を極力削減する工夫をしました。Mayaベースなので、わざわざ何かを変換する必要もないため、基本的には1つのソフトウェア上で全部できてしまうんです。 Crowd リード 護守 智 Crowd リード 護守 智

堀部

接地はどうしてもMiarmyのほうがちょっと甘い感じになっちゃう?

護守

そうですね。Massiveに比べればそう言えるかもしれません。でも頑張れば上等に仕上がるツールですね。 Massiveは確かに大変なのですが、ちょっと設定してしまえば大体いい感じになってくれるので、必要以上にトライアンドエラーが起きないんです。

田中

MassiveからMayaに移動させたりして、被ったものもあります。違う人が作ると仕様が変わるので、骨の都合とかで勝手が悪いものは変えていったりしたことで、モブの体数は増えていきました。ファッションに関しても作画はシンプルなので、実際(実写)よりもそぎ落としてシンプルにして。

堀部

監督側に途中経過のチェックをしてもらうタイミングを見計らうのも難しいんです。タイミングが怖いですね(苦笑)。形になっていない早い時期に提出をしても向こう側としても検討しにくいし、修正がたくさん入ってしまう。出来上がりすぎても、修正するにあたって工程が複雑になるかもしれないので。

これらモーションデータはモーションキャプチャで実演から収集し、各群集シミュレーションと手置きで汎用していくリストを構築している。ベースとなるモーションは決まっていても、鞄を持っていたり携帯を持っていたりとバリエーションが加わると、モーション数が膨れあがる。加えて、右足から歩くなど演技のモーションも生成されており、その数はMassiveだけで200以上になっていた。このリストを作るだけでもかなりの労力が費やされたことだろう。

亀川

シミュレーションの場合は部材としてのモーションなので、それらを細かくチェックしていくのにも時間がかかりました。モーションキャプチャをするので生の動きなのですが、あまりリアルすぎてモブの中で目立ってはいけないので、なるべく部材として癖のない動きにしなければならない。洗練されたデータにするというあたりにも気を使いました。

モブ作成のためのツール開発

TDユニットでは、モブ作成のためのプラグインやシェーダーなど、本作向けに新しくツールを開発している。従来からのモブ生成用ツールだけでは今回のプロジェクトは乗り越えられないという判断のもと、モブを作るためだけのツール開発に踏み切ったという。

石田

モブといってもパーツがそれぞれあるので、今回開発したのは単純に1体を作るのではなく、パーツを組み合わせた状態で出力するためのツールです。Maya上でキャラクターアニメーションが流れるまで、つまりレンダリングまでの作業がこのツールの仕事となります。

  • テクニカルディレクター 石田利生 テクニカルディレクター 石田利生

テクニカルディレクター 石田利生 テクニカルディレクター 石田利生

ボティから髪の毛まで、全部オブジェクトとして分かれているので、それらを組み合わせて1体のキャラクターにします。その最初のパーツ作りから始まって、このツールで個々のパーツを読み込みキャラクターとしてのルックを決めていくんです。その後にリグチームがパーツごとにリグを差し込み、色分けもしていく。最終的に(ツール上で)ボタン1つでキャラクターができるようにして、それにアニメーションチームがアニメーションを施し、シーンが出来上がります。次がレンダリングです。またここでモブ側に持っていくという流れもあります。

ツールの開発はほぼ1人で、3か月程度かけて行いました。結構いろいろと並行して動いていたので、出来るまでに思ったより時間がかかってしまいました。モデリングからレンダリングまで、全ての工程を通さなければならなかったので、繋げるためにはどういうものが一番いいかすごく悩みました。一工程をミスったら、もうドミノ倒しになりますからね。時期的には去年の秋の話です。予告編に渋谷の群衆のカットを使うというので、それに間に合わせるために必死になりました。実はその時点ではまだ、完全に完成したツールではなかったんですけどね。

堀部

打ち合わせは去年(2014年)の頭から始まって、本格的な制作に入ったのは7月です。絵コンテでも最初にいきなり渋谷のスクランブル交差点が出てくるので、もう最初にこれをやらないと映画が作れないという(苦笑)。それで最初にテストしたのが、この渋谷交差点のカットでした。

作画を引き立てるための作りこみ

護守

CGのシェーダーだと線が均一にしか出ないので、セルアニメーションのようなムラがあるシェーダーを生成できるように、開発を行いました。セル用の輪郭線にもいくつかパターンを作っています。近いところはセルに描いたような均一のない太目の線で、ムラがあるシェーダー。遠いモブキャラの輪郭には細いペンの線を生成させています。シェーダーは何十個もありますが、本作用に3、4個のカスタムシェーダーを開発しました。

影だけを出すためのオブジェクトを作って細田流の影を編み出しました。細田監督の作画では影は基本的にそんなになく、丸くシンプルな影しか作画では描かれていないので、CG側ではキャラクターとは別のシンプルな形のオブジェクトを置き、それで影を生成するようにしました。モブには全部、この影のオブジェクトが仕込まれていて、影を落とすとこのオブジェクトに対して影が落ちるように組み込んであります。普通の影をつけてしまうと、あまりにもCGっぽく見えてしまうので。

赤いウォーリーを探せ!

護守

石田

シェーダーを作ってもらった塚本さん(TDユニット)に、何かしらエラーが出てうまくレンダリングできなかった場合は赤で見せるように設定してもらったんです。ですから、赤くなった場合は何処かしらシェーダー(パーツ)にエラーがあるはずなので、ひとつひとつ確認して詰めていきました。…特に予告編はめちゃくちゃ大変でした。予告編に使われていた渋谷の交差点のシーンのレンダリングに差し掛かったときに、この赤いエラーが沢山発覚してしまったんです。特にこのシーンはモブ数が多く重なっていて、どこで赤くなっているのか一発で判らないので、僕らはこれを“ウォーリーを探せ”といっていたんですけど(笑)。どこが間違っているのかを肉眼で探して、それはどのID番号のもので、更にどこのパーツのものかということを手繰っていくんです。とりあえずレンダリングしてみて、エラーがあったら、ここかなと直してみて、もう一度流してみてエラーが消えているかどうか確認するという、気が遠くなる作業でした。このツールのデバックをしながらも、実は締めの期日がギリギリで。予告編では、特に全部見えてしまう部分だったせいか、細かいところまでが赤くなるんですよ。ただ、このシーンでほぼバグをつぶし終えられたので、後はエラーなく進めることができました。